北千住駅すぐの動物病院 整形外科の対応疾患
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- 膝蓋骨内方脱臼(Medial Patellar Luxation)とは?
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病態・原因
膝蓋骨内方脱臼は、膝蓋骨が滑車溝から脱臼し、内側に変位することで疼痛や運動機能障害が生じる整形外科疾患です。発症要因について、いわゆる「先天性」と表現されることがありますが、厳密には出生後の成長過程で形成される発育性疾患と考えられています。
生まれつき膝蓋骨が外れているわけではなく、もともと存在する骨格の素因が、成長に伴って膝関節周囲の変形を進行させ、最終的に膝蓋骨が内側へ外れやすくなります。
主な異常としては、以下が挙げられます。
- 大腿骨や脛骨の変形
- 大腿四頭筋機構のアライメント異常

- 脛骨粗面の内側偏位
- 脛骨の内旋
- 大腿骨滑車溝の浅さ(滑車低形成)
- 大腿骨内側顆の低形成
正常では、膝蓋骨が滑車溝にはまり込むことで、成長期に滑車溝の深さが保たれます。しかし、早期から膝蓋骨が正常な位置にない場合、滑車溝が十分に発達せず浅くなるため、さらに脱臼しやすくなるという悪循環が生じます。また、このような骨格異常には遺伝的背景が関与すると考えられており、繁殖には慎重な判断が必要とされています。
疫学
膝蓋骨脱臼は、小型犬で非常によくみられる整形外科疾患のひとつです。
小型犬では特に内方脱臼が多く、しばしば両側性に発生します。
犬は8割が発育性で、猫では9割が外傷性に発生します。
症状は無症状のこともあれば、重度の歩行障害が生じることもあり、さまざまです。
また、慢性的な膝蓋骨脱臼を患う症例の15―20%で、前十字靱帯断裂を併発することがあります。
【重症度分類】
重症度は一般に、 ”シングルトンの分類” にもとづき、グレード1〜4に分類されます。
グレード1
- 指で押すと外れるが、手を離すと自然に戻る
→ 症状がない場合や、軽度なことが多い。
グレード2
- 自然に外れたり戻ったりする
→ときどき後肢を挙げる、スキップするような歩き方を示す。
→軽度の骨変形を伴うことがある。
グレード3
- 常に外れているが、手で戻すことは可能
→跛行が顕著で、膝を曲げたまま歩くことがある。
→骨の変形がより明瞭になることがある。
グレード4
- 常に外れており、触診でも戻せない
→重度の骨格変形を伴うことがある
→早期に治療介入しないと、矯正が困難となるほどの骨格変形が生じることがある。
診断
診断は、まず触診による整形外科学的検査が基本となります。
膝蓋骨がどの方向に、どの程度外れるかを評価し、グレード分類を行います。
あわせて以下を確認します。
- 歩様の異常
- 両側性かどうか
- 前十字靱帯断裂の併発の有無
- 関節液貯留や疼痛の有無
- 膝蓋骨の位置異常(高位膝蓋・低位膝蓋)
- 大腿骨・脛骨の変形の程度
画像検査として、レントゲン検査を行います。
重症例や骨変形が重度の症例では、大腿骨・脛骨を含めた撮影が必要となり、必要に応じてCT検査により三次元的に変形を評価します。
治療
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治療は、症状の有無、脱臼グレード、骨変形の程度、関節炎の進行、年齢を踏まえて決定します。保存療法
以下のような症例では、経過観察や内科的管理が選択されることがあります。
- グレード1で症状がない
ただし、症状が悪化する場合は再評価が必要です。
外科治療
以下のような症例では、外科治療が推奨されます。
- グレード2で症状が明らか
- グレード3、4
- 跛行が繰り返される
- 骨変形の進行が懸念される
- 関節炎の進行を抑えたい場合
特に重度例では、早期の手術介入が将来的な変形進行や変形性関節症の抑制につながります。
手術の考え方
膝蓋骨内方脱臼の手術では、単に膝蓋骨を元の位置に戻すだけでは不十分です。重要なのは、大腿四頭筋機構の整列を是正し、膝蓋骨が滑車溝内で安定して動くように再建することです。
症例に応じて、以下の術式を組み合わせます。
- 滑車溝形成術
浅くなった滑車溝を深くして、膝蓋骨が安定してはまるようにします。
代表的には、
- ウェッジリセッション
- ブロックリセッション
などが用いられます。
現在は、可能な限り関節軟骨を温存する術式が好まれます。
- 脛骨粗面転位術
内側に変位した脛骨粗面を外側へ移動させ、膝蓋靱帯の牽引方向を正常化します。
膝蓋骨脱臼の矯正で非常に重要な術式のひとつです。
- 外側支帯の縫縮
内側の組織を解放し、外側の組織を縫縮することで、膝蓋骨の安定性を高めます。
ただし、本術式のみで根本治療とすることは通常ありません。
- 矯正骨切り術
大腿骨や脛骨の変形を伴う症例では、骨そのものの軸を矯正する手術が必要になることがあります。
特に重度の症例では、矯正の有無が治療成績を左右します。
*若齢犬での注意点
成長期の犬では、成長板への影響を考慮しなければなりません。
重症症例の場合、段階的治療を選択し、成長期の終了後に根治手術を行うことがあります。
術後管理
術後は、術者の判断により3〜14日程度、ロバートジョーンズ包帯を装着することがあります。
また、骨の治癒を待つため、術後3ヶ月は運動制限が必要です。この期間は、基本的に散歩には行かず、段差の昇降や激しい運動、滑りやすい床での活動は避けます。
予後・術後成績
予後は、脱臼の重症度や骨変形の程度によって異なります。
- グレード2〜3:一般的に予後は良好
- グレード4:多くは改善が期待できるものの、再脱臼などの合併症も発生しやすい。
*ただし、重度の骨変形、変形性関節症、軟骨損傷、筋萎縮、著しい回旋変形を伴う症例では、運動機能の改善が期待できない場合もあります
つまり、多くの症例で術後の歩行機能改善が期待できますが、重症の場合は完全に正常な関節機能まで回復しないこともあります。
術後合併症
膝蓋骨内方脱臼の手術後には、以下の合併症が起こることがあります。
- 骨切り部の癒合遅延
- インプラントの緩みや破綻
- 膝蓋骨の再脱臼
- 感染
- 変形性関節症の進行
特に再脱臼は重要な合併症のひとつで、これは単に膝蓋骨だけでなく、大腿骨・脛骨の変形やアライメント異常をどこまで適切に評価し、同時に矯正できたかが大きく影響します。
*当院におけるグレード1〜3の症例の術後再脱臼率は、約2.5%です。
*グレード4については、矯正骨切りが必要となることがあります。
長期経過について
手術後、多くの症例では臨床的に良好な改善が得られます。
一方で、レントゲン上は変形性関節症が緩徐に進行することもあります。つまり、画像上は関節の変化がみられても、実際の生活の質や歩行状態は良好に保たれることが少なくありません。
報告によっては、一定の割合で再手術が必要となるとされていますが、脛骨粗面転位術に加え、滑車形成術や必要に応じた矯正骨切り術を適切に組み合わせた症例では、再脱臼や重度合併症のリスクが低下することが示されています。
特に、大腿骨遠位の内反変形を伴う症例で、大腿骨の矯正骨切り術を含めて総合的に治療した場合、良好な成績が報告されています。
このことからも、膝蓋骨内方脱臼の治療では、脱臼そのものだけでなく、各症例に存在する骨格異常を正確に評価し、必要な異常を適切に是正することが極めて重要です。
適切な診断では、
- 脱臼のグレード
- 骨変形の有無
- 前十字靱帯疾患の併発
- 年齢と成長段階
を総合的に評価し、症例ごとに最適な治療法を選択することが大切です。
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まとめ
小型犬の膝蓋骨内方脱臼は、単なる「膝のお皿のずれ」ではなく、後肢全体の骨格配列異常を伴う発育性疾患です。
軽度では無症状のこともありますが、重度となると歩行障害や関節炎、前十字靱帯損傷の原因となります。
膝蓋骨内方脱臼の術後成績は、グレード1〜3では比較的良好であり、グレード4の症例でも適切な術式選択により改善が期待できます。
一方で、重症例ほど骨変形や関節軟骨の損傷を伴うことがあるため、治療計画はより慎重に立てる必要があります。
そのため当院では、単に「外れた膝蓋骨を戻す」だけでなく、
- 脱臼のグレード
- 骨格変形の程度
- 関節炎や軟骨損傷の有無
- 前十字靱帯疾患の併発
- 年齢や成長段階
を総合的に評価し、症例ごとに最適な治療計画をご提案することを大切にしています。
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